夏の終り [好き放題の映画レビュー]


夏の終り [DVD]

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昭和37年に発表された瀬戸内寂聴の小説を映画化した作品。
瀬戸内寂聴は、
現在では柔和な顔の尼さんというイメージ
強いかもしれませんが、
若いころは超肉食系とも言える恋愛遍歴で知られています。


瀬戸内寂聴が、恋愛遍歴を元に書いたのが「夏の終り」です。

この映画を観ようと思ったきっかけは予告編です。
もともと、満島ひかりという女優がとても好きで、
彼女が主演ということで興味はあったのですが、
予告編で観た彼女の演技に衝撃を受けました。

ちょっと見てやってよ、奥さん!



「分からないの、どうしたらいいのか分からないの」
この台詞を言うときの表情が何とも素晴らしいと思いませんか?



この物語は、
夫と子どもがいながら若い男と恋愛関係になり離婚した女が、
その若い男と別れ、
年上の男の愛人(妾ってやつですね)になったものの、
再び若い男と関係を持つようになる、
という、
まあ、言ってみれば
二人の男を両天秤にかけるような性悪女が主役、
と見られなくもないんです。



私は、二人の男と同時に付き合った経験などありません。
まあ、二人の男から同時期に求愛されるなんていう、
めっちゃホリデーな状況に置かれたことがないからではありますが、
仮にそういう状況に恵まれたとしても、
同時に付き合うようなことはまずしないな、
不誠実極まるではないかね!と思う純真無垢なタイプの人間です。

だから、本来なら、
この知子という主人公に嫌悪感を覚えてもおかしくないのですが、
満島ひかりが見せる「女としての弱さ」によって、
むしろ同情を覚えてしまうのです。
それが、先ほどの「分からないの」という表情に集約されていると思います。



そして、観ている間に、
主人公は決して男二人を両天秤にかけているわけではなく、
結局、長年愛人関係にある年上の男(=慎吾)のことしか愛していない、
年下の男(=涼太)の方には愛情はなく、
愛する男に対するねじれた感情が、別の男との関係を作り出した、
そう思うようになります。


なんやそれ、結局、綾野剛利用されただけか! このビッチ!
そう思われるかもしれませんが、
チッチッチッチッ!
愛とはかくも無様で、愚かなものなんですよ!


知子は、涼太と再開するまで慎吾との関係に何も不満を抱いていなかったんです。
8年もの間、知子は囲われ続けていて、
慎吾は本妻と知子の家を行き来する状態が続いています。
本妻も知子の存在を知っていて、言わば公認のお妾さんです。
そのことに知子は何の不満も持っていなかったのに、
涼太との再会をきっかけに慎吾に本妻との離婚を迫るようになります。
直接のきっかけとなったのは、
知子と涼太のかつての関係を知っているにも関わらず、
慎吾が涼太のことを知子に向かって平気で話したことでしょう。

「奥さんと別れる気もないくせに、
私と涼太の関係に嫉妬もしないなんて、
 随分余裕かましてんのね?!」


おそらく、知子はこう思ったのではないでしょうか。
もともとは、
慎吾にヤキモチを妬かせたくて涼太と会い始めたものの、
いつの間にやら離れられなくなってしまいます。
それは、
知子にとって涼太が都合のいい話し相手だったからだとも言えるし、
二股掛けられてるかわいそうな人という共通の境遇が、
シンパシーを感じさせたからとも言えるでしょう。
涼太と会うことで、知子は孤独を癒すことができたのです。
もちろん、
二股掛けてるのは自分自身なわけで、
知子は、涼太を「二股掛けられてるかわいそうな人」にしてる張本人なんですけどね。



いずれにしろ、
知子は8年にもわたる慎吾との愛人関係を、
涼太という第三者を媒介にしなければ動かすことができなかったわけです。

そして、慎吾との関係がこれまで停滞してきた理由は
慎吾の優柔不断さにあるにも関わらず、
知子は本妻と直接コンタクトを取り、
本妻に離婚を迫ろうとしてしまいます。
知子は、
二人の関係を第三者を媒介として変化させようとし、
第三者に責任を委ねようとする
のです。
知子はあまりに臆病な女です。



この映画の登場人物は総じてクズです。
年下の男を利用して愛人の気持ちを確かめようとする女も、
本妻と愛人のどちらにもいい顔をし続ける男も、
親しい知人の情婦に手を出しながらその知人と平気な顔で会う男も、
み〜〜〜〜〜んなクズ!



でも、この映画はきれいごとを描いていないからこそ、
リアリティがあるんだと思います。
登場人物、全員があまりに不器用すぎるんです。
お前、もうちょっとうまく生きろや〜
そう声を掛けたくなるのですが、
だからこそ、
人間くさく、既視感のある物語となっているのだと思います。



これまでに恋愛をしたことがある人なら、
それが片想いであったとしても、両思いであったとしても、
きっと登場人物のうちの誰かに自分の姿を見つけ出すのではないでしょうか。
恋愛は時として、不格好で愚かで馬鹿馬鹿しいものです。

何歳になっても、人は恋愛を前に臆病で愚かな馬鹿野郎になります。
恋愛はだからこそ楽しいものだし、だからこそ価値があるものだ、
そうこの映画を観て思いました。


うわ、何言ってんの、こいつめっちゃ恋愛脳、
つーかスイーツ脳、キモッ!

そう思われたらニントモカントモ立つ瀬がないのですが、
人って、
嫌いなものに対しては合理的な判断ができるけれど、 好きなものに対してはとことん不器用な存在だと思いますよ(キリッ)


では、この辺で。
メルシーボークー!

夏の終り (新潮文庫)

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  • 作者: 瀬戸内 寂聴
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1966/11/14
  • メディア: 文庫



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