芥川龍之介「魔術」・大正8年11月 [芥川龍之介]

今回も芥川龍之介のマイナーな短編小説を紹介します。
「魔術」です。
この作品は、児童向け雑誌『赤い鳥』に掲載されました。
以前ご紹介した「トロッコ」もそうでしたね。

では、さっそくどんな物語なのか、最後まであらすじを紹介したいと思います。

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ある雨の晩、「私」は大森に住むインド人魔術師、マテイラム・ミスラを訪ねた。
ミスラはハッサン・カンの魔術の悲報を学んだ人物として知られている。
ミスラの魔術は催眠術の一種で、テーブルクロスに描かれた花模様を実際の花として取り出してその香りを嗅がせたり、書棚の本をコウモリのように空中に舞わせることができた。

「私」はミスラに自分も魔術を学びたいと言うが、ミスラは「誰にでも魔術は使える、だが、欲のある人間には使えない」と言う。
「私」は「欲を捨てる」ことを約束し、ミスラの屋敷に泊まり、魔術を学ぶことにする。

一ヶ月ほど経ったある日、「私」は銀座の倶楽部で5〜6人の友人と雑談をしていた。
友人の一人が「私」に魔術を見せるよう請うたため、
「私」は煖炉の中で熱せられた石炭を手づかみで取り出し、
その石炭をたくさんの金貨に変えて見せた。
その金貨の総額は20万円ほどあった。

大金が目の前に現れて友人たちは興奮するが、
「私」は「欲を持ってはいけない」ので、
金貨は煖炉の中に入れ元の石炭に戻すつもりだった。
だが、友人たちはそれに納得しない。

しばらく押し問答が続いたが、一人の狡猾な友人がこんな提案をした。
「トランプで勝負をして、もし君が勝てば金貨は石炭に戻せばいい。
 ただし、僕たちのうちの誰かが勝てば、その金貨は僕たちに渡したまえ」

「私」はこの提案を最初は断ったが、
「君は金貨を僕たちに渡したくないんだろう。
欲を捨てたとか言ったが、
その決心も怪しいものだね」
と言われ、結局勝負を受けることになる。

トランプを始めたところ、なぜだかその日は「私」が連勝する。
「私」が勝ち続けているうちに、いつの間にか、金貨の総額と同じくらいの儲けが出た。
勝負を持ちかけた友人は、負けが込んできたため、
自棄になって自分の全財産を賭けると申し出る。

この勝負に勝てば、これまでの儲けだけでなく、友人の全財産が手に入る、
そう思った途端に「私」に欲が出た。
思わず勝負に勝つために魔術を使ってしまったのだ。
すると、トランプのキングのカードに描かれた王様が身を起こし、
聞き慣れたミスラの声で話し始めた。

ハッと気がつくと、そこはミスラの屋敷の一室だった。
ミスラに「欲を捨てる」ことを約束したあの晩に戻っている。
1ヶ月経過したと思っていたが、実はあれから2、3分しか経っていなかったのだ。

ミスラは、「魔術を使うためには欲を捨てなければいけません。あなたにはまだその修行ができていません」と「私」をたしなめた。
「私」は恥ずかしさにただうつむいて黙っていた。

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いかがでしたでしょうか。
児童向けということもあり、
まるでグリム童話とかイソップ童話のような分かりやすい教訓譚となっています。
人間にとって「欲」を捨てることがどれほど難しいのか、
人間というのがどれほどエゴイスティックな存在なのかが表された物語です。

ところで、この物語に出てくるマテイラム・ミスラというインド人は、
実は芥川龍之介が作り出したオリジナルキャラクターではなく、
大正6年に発表された谷崎潤一郎の小説「ハッサンカンの妖術」に登場するキャラクターなんです。
谷崎の小説に出てきた登場人物を借りて芥川が小説を書いたなんて、
何だかワクワクしませんか?


「妖術」で読書感想文を書くのであれば、
なぜ「欲」は否定されなければならないのか考えてみるといいかもしれませんね。
「欲を捨てる」ことを条件に魔術を教わることを了承したミスラですが、
じゃあ、何のために魔術はあるのでしょうか。
自分の「欲」を一切捨てた言動など果たしてあり得るのか、
人は結局何でも「欲」のために動くのではないか、
そもそも「欲」は悪いものではないのではないか、
考えてみると面白いと思います。

↓ポッチリプリーズです。

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