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芥川龍之介「魔術」・大正8年11月 [芥川龍之介]

今回も芥川龍之介のマイナーな短編小説を紹介します。
「魔術」です。
この作品は、児童向け雑誌『赤い鳥』に掲載されました。
以前ご紹介した「トロッコ」もそうでしたね。

では、さっそくどんな物語なのか、最後まであらすじを紹介したいと思います。

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ある雨の晩、「私」は大森に住むインド人魔術師、マテイラム・ミスラを訪ねた。
ミスラはハッサン・カンの魔術の悲報を学んだ人物として知られている。
ミスラの魔術は催眠術の一種で、テーブルクロスに描かれた花模様を実際の花として取り出してその香りを嗅がせたり、書棚の本をコウモリのように空中に舞わせることができた。

「私」はミスラに自分も魔術を学びたいと言うが、ミスラは「誰にでも魔術は使える、だが、欲のある人間には使えない」と言う。
「私」は「欲を捨てる」ことを約束し、ミスラの屋敷に泊まり、魔術を学ぶことにする。

一ヶ月ほど経ったある日、「私」は銀座の倶楽部で5〜6人の友人と雑談をしていた。
友人の一人が「私」に魔術を見せるよう請うたため、
「私」は煖炉の中で熱せられた石炭を手づかみで取り出し、
その石炭をたくさんの金貨に変えて見せた。
その金貨の総額は20万円ほどあった。

大金が目の前に現れて友人たちは興奮するが、
「私」は「欲を持ってはいけない」ので、
金貨は煖炉の中に入れ元の石炭に戻すつもりだった。
だが、友人たちはそれに納得しない。

しばらく押し問答が続いたが、一人の狡猾な友人がこんな提案をした。
「トランプで勝負をして、もし君が勝てば金貨は石炭に戻せばいい。
 ただし、僕たちのうちの誰かが勝てば、その金貨は僕たちに渡したまえ」

「私」はこの提案を最初は断ったが、
「君は金貨を僕たちに渡したくないんだろう。
欲を捨てたとか言ったが、
その決心も怪しいものだね」
と言われ、結局勝負を受けることになる。

トランプを始めたところ、なぜだかその日は「私」が連勝する。
「私」が勝ち続けているうちに、いつの間にか、金貨の総額と同じくらいの儲けが出た。
勝負を持ちかけた友人は、負けが込んできたため、
自棄になって自分の全財産を賭けると申し出る。

この勝負に勝てば、これまでの儲けだけでなく、友人の全財産が手に入る、
そう思った途端に「私」に欲が出た。
思わず勝負に勝つために魔術を使ってしまったのだ。
すると、トランプのキングのカードに描かれた王様が身を起こし、
聞き慣れたミスラの声で話し始めた。

ハッと気がつくと、そこはミスラの屋敷の一室だった。
ミスラに「欲を捨てる」ことを約束したあの晩に戻っている。
1ヶ月経過したと思っていたが、実はあれから2、3分しか経っていなかったのだ。

ミスラは、「魔術を使うためには欲を捨てなければいけません。あなたにはまだその修行ができていません」と「私」をたしなめた。
「私」は恥ずかしさにただうつむいて黙っていた。

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いかがでしたでしょうか。
児童向けということもあり、
まるでグリム童話とかイソップ童話のような分かりやすい教訓譚となっています。
人間にとって「欲」を捨てることがどれほど難しいのか、
人間というのがどれほどエゴイスティックな存在なのかが表された物語です。

ところで、この物語に出てくるマテイラム・ミスラというインド人は、
実は芥川龍之介が作り出したオリジナルキャラクターではなく、
大正6年に発表された谷崎潤一郎の小説「ハッサンカンの妖術」に登場するキャラクターなんです。
谷崎の小説に出てきた登場人物を借りて芥川が小説を書いたなんて、
何だかワクワクしませんか?


「妖術」で読書感想文を書くのであれば、
なぜ「欲」は否定されなければならないのか考えてみるといいかもしれませんね。
「欲を捨てる」ことを条件に魔術を教わることを了承したミスラですが、
じゃあ、何のために魔術はあるのでしょうか。
自分の「欲」を一切捨てた言動など果たしてあり得るのか、
人は結局何でも「欲」のために動くのではないか、
そもそも「欲」は悪いものではないのではないか、
考えてみると面白いと思います。

↓ポッチリプリーズです。

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↓「魔術」はこちらに収録されています!
子ども向けの本もあるので、お母さんどうですか!

蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (岩波文庫)

蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (岩波文庫)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1990/08/18
  • メディア: 文庫



蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (ワイド版岩波文庫)

蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (ワイド版岩波文庫)

  • 作者: 芥川 竜之介
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2013/01/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



杜子春・トロッコ・魔術―芥川竜之介短編集 (講談社青い鳥文庫 (90‐1))

杜子春・トロッコ・魔術―芥川竜之介短編集 (講談社青い鳥文庫 (90‐1))

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1985/02/10
  • メディア: 新書



魔術 (日本の童話名作選シリーズ)

魔術 (日本の童話名作選シリーズ)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 大型本



齋藤孝のイッキによめる! 小学生のための芥川龍之介

齋藤孝のイッキによめる! 小学生のための芥川龍之介

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/07/16
  • メディア: 単行本



魔術 (1年生からよめる日本の名作絵どうわ)

魔術 (1年生からよめる日本の名作絵どうわ)

  • 作者: 芥川龍之介
  • 出版社/メーカー: 岩崎書店
  • 発売日: 2012/08/25
  • メディア: 単行本



文豪怪談傑作選 芥川龍之介集 妖婆 (ちくま文庫)

文豪怪談傑作選 芥川龍之介集 妖婆 (ちくま文庫)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/07/07
  • メディア: 文庫


↓谷崎潤一郎の「ハッサンカンの妖術」はこちらの文庫で読めますよ〜!
潤一郎ラビリンス〈6〉異国綺談 (中公文庫)

潤一郎ラビリンス〈6〉異国綺談 (中公文庫)

  • 作者: 谷崎 潤一郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1998/10/18
  • メディア: 文庫



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芥川龍之介「父」・大正5年3月 [芥川龍之介]

今回は芥川龍之介の短編小説「父」を紹介します。
マイナーな作品です。
が、非常に印象的な作品なので、ぜひ読んでいただきたいと思います。

あらすじを簡潔に、最後までご紹介しますね。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「自分」が中学校4年生の時、学校で修学旅行に行くことになった。
集合場所の上野駅に向かう電車の中で、
「自分」は小学校から同じ学校に通う能勢五十雄(のせ・いそお)に会う。

能勢は特別成績がいいわけではないが器用なタチで、
友人や教師からのウケもいい。
「自分」は能勢とは顔見知りではあったが、それほど親しいというわけではなかった。

上野駅に着いて、友人たちと合流した「自分」と能勢は、
駅を行き交う人々に好き勝手なあだ名を付けてクスクスと笑っていた。
中でも、一番絶妙なあだ名を付けるのは能勢だった。

すると、ちょうど目の前にマンガに出てくるような滑稽な風貌をした、年配の男性がいるのが見えた。
古くさい服装をしていて、あだ名をつけるにはかっこうの標的である。
皆、能勢がどんなうまいあだ名を付けるのか期待して待っていた。

が、「自分」はその古くさい服装をした男性が能勢の父親だと気づいた。
他の友人は能勢の父親の顔を知らない。
「自分」はそれが能勢の父親だと言おうとしたが、その瞬間に、
能勢が「あれは、ロンドン乞食だぜ」と言い、
友人たちが一斉に噴き出した。
能勢の父親の真似をする者もいた。
「自分」は能勢の顔を見ることができずに、うつむいていた。

あとから知ったことだが、
能勢の父親は当時大学の薬局に勤務していて、
その日は修学旅行に出発する息子の様子を見に、
わざわざ上野駅に来ていたのだった。

能勢は中学卒業後すぐに結核で死んだ。
中学校で開かれた追悼式で、「自分」は悼辞を読んだ。
悼辞の中に「君、父母に孝に」という句を入れた。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

いかがでしたでしょうか。
何だか甘酸っぱいような、苦いような、そんな物語ですよね。

「自分」は、器用な能勢に憧れを抱くと同時に、嫉妬心も持っていたのでしょう。
しかし、ふとしたことで能勢の秘密を知ってしまうわけです。
能勢は、みんなからウケるためには、実の父親をもネタにして小馬鹿にする、そんな一面を持っていることを、「自分」だけが気づいてしまったのです。

「自分」は能勢の追悼式で悼辞を読みますが、
その中で能勢を「孝行な息子」として表現したのはなぜでしょうか。
解釈は色々できると思います。
嫌味だとも考えられます。
「不孝」な一面を知っている「自分」だからこそ、
親をバカにして得意げな顔をしていた能勢に対して嫌味を言ったのだ、
とも考えられるでしょう。

「嫌味」ではなく、能勢と秘密を共有していたことを暗に示し、憧れていた能勢との密接な関係を強調したかったとも読めるでしょう。
「自分」は能勢に憧れていたのです。
憧れの能勢の秘密を自分だけが知っていた、その優越感を示したかったとも言えるでしょう。

あるいは、能勢のプライドを守ることで友情を示した、とも解釈できます。
「自分」は誰も気づいていなかった能勢の弱さを知っていました。
人前でむやみやたらに明るく振る舞う人が、実は陰ではものすごい弱さを持っているっていうことはよくあることだと思います。
能勢の饒舌さや明るさは、自分自身の弱さを隠すための鎧だったとも言えるでしょう。
「自分」はその鎧の中味を知ってしまったけれど、それを知らないフリをし続けることで、能勢に対しての敬意と友情を示した、そうも読めるのです。

色々な解釈ができる作品です。
読書感想文にも向いているのではないでしょうか。
ぜひ読んでみて下さいね!

映画のレビューと別人が書いてるんじゃないか? と思われるかもしれませんが、
同一人物です!

↓よろしくおねがいします!

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↓岩波文庫に収録されています!

蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (岩波文庫)

蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (岩波文庫)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1990/08/18
  • メディア: 文庫









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芥川龍之介「杜子春」・大正9年6月 [芥川龍之介]

芥川龍之介の「杜子春」です。
この作品は雑誌『赤い鳥』に発表されました。
『赤い鳥』は児童雑誌です。
つまり、この作品は子ども向けに書かれた童話であるということです。

この物語は、中国の古典『杜子春伝』を元に書かれています。
ですから、物語の舞台も中国=唐になっています。

では、どんなお話なのか、見てみましょう。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
唐の都の洛陽の西門にぼんやりと空を眺める男がいた。
男の名は杜子春。
杜子春はもともとは大金持ちの息子だったが、
財産を使い果たして、住む所もないその日暮らしを送っていた。
いっそのこと川に身を投げて死んでしまおうかと杜子春が考えていると、
目の前に、片目が斜視の老人が現れた。

「お前は何を考えているのだ」と問う老人に対し、
杜子春は「今夜寝るところがないのでどうしようかと思っていました」と答える。
すると老人は、
「夕日に向かって立つと地面に自分の影ができる。
 その影の頭の部分を掘ってみろ。
 車にいっぱいの黄金が埋まっているぞ」
と言う。
老人の言う通りに地面を掘ってみると、言葉通り黄金が出てくる。
杜子春は洛陽一の大金持ちとなった。

大金持ちとなった杜子春は、立派な家を買い贅沢三昧の暮らしを始める。
杜子春が金持ちになったことを聞いて、
それまでは疎遠だった友だちが大勢訪ねてくる。
杜子春は訪ねてくる客人を相手に、
毎日酒盛りを繰り広げた。

毎日のように贅沢三昧の宴会を繰り広げるうちに、
杜子春の財産は尽きていく。
次第に杜子春の元を訪ねる友人は少なくなり、
3年目の春、杜子春が元通りの一文無しになると、
杜子春の周りからは誰もいなくなってしまった。

以前と同じように西門の下でぼんやりと佇んでいると、
以前と同じように老人が現れた。
そして、今度は自分の影の胸の辺りを掘れと杜子春に言う。

今回もまた大金を手にし大金持ちとなった杜子春だったが、
前回同様、3年で財産を使い切ってしまった。

再び杜子春が西門の下に立っていると、
老人が現れ、影の腹の辺りを掘れと言う。
が、老人に対して杜子春は言った。
「自分はもうお金はいらない。人間というものに
 ほとほと愛想が尽きた。
 人間は皆薄情で、金のあるときだけチヤホヤしに来る。
 だから、もう一度金持ちになっても意味がない気がする。」
さらに、杜子春は老人の元で仙術の修行をしたいと申し出る。

杜子春の推測通り、老人は仙人であった。
峨眉山(がびざん)に住んでいる鉄冠子(てつかんし)という名の仙人だ。
鉄冠子は杜子春を弟子にすることを了承し、
竹杖に乗せて杜子春を峨眉山の大きな岩の上まで連れて行く。

鉄冠子は、これから西王母に会ってくるから、
その間この岩の上で待っているように杜子春に命じる。
ただし、絶対に声は出してはいけないという。
色々な魔性が現れてたぶらかそうとするだろうが、
絶対に声を出してはいけない、
もしも声を出したら、もう仙人にはなれないと思え、
そう言われて杜子春は、「命がなくなっても黙っている」ことを約束した。

鉄冠子が飛び去ってしばらくすると、空から声が聞こえてきた。
「そこにいるのは何者だ。返事をしなければ命はないぞ」
杜子春が返事をしないでいると、目の前に虎、続いて白い大蛇が現れる。
それでも杜子春が眉一つ動かさずにいると、
虎と蛇が同時に杜子春に飛びかかり、
杜子春の体に触れる寸前に霧のように消えてしまった。
杜子春はホッとして、今度はどんなことが起きるのかと心待ちにする。

続いて、黒い雲が空に現れ、激しい雷雨となった。
雲の間から一本の大きな火柱が杜子春めがけて落ちてきたので、
杜子春は思わず耳に手を当て、岩の上にひれ伏す。
が、目を開けると嵐はすっかり治まっていた。

さらに今度は、金の鎧を着た身の丈三丈(約9m)ほどの神将が現れる。
手には三つ叉の鉾を持っている。
神将は鉾の切っ先を杜子春の胸元に向けて言った。
「お前は何者だ。この峨眉山は大昔から俺の住みかだ。
 それにも関わらずたった一人でやってくるとは、
 お前はただものではなかろう」
杜子春が何も答えないので、神将は自分の眷属(けんぞく=部下)を呼び寄せる。
無数の神兵の姿を見て、思わず杜子春は声を上げそうになるが、
鉄冠子との約束を思い出し我慢する。
何も答えない杜子春に腹を立てた神将は、
鉾で杜子春を一突きにする。

神将に殺された杜子春の魂は、肉体から抜け出て地獄の底に下りていく。
森羅殿に行き着いた杜子春は、
閻魔大王の元に連れて行かれる。
閻魔大王に峨眉山に座っていた理由を聞かれるが、
やはり杜子春は答えない。
怒った閻魔大王は鬼たちに命じ、
杜子春にあらゆる責め苦を与える。
剣の山、血の池、炎の谷、氷の海・・・・・・。
それでも杜子春は何も喋ろうとしない。

呆れた鬼たちは、再び杜子春を閻魔大王の元に連れて行く。
閻魔大王は、畜生道に落ちていた杜子春の両親を連れてこさせる。
両親はみすぼらしい痩せ馬に姿を変えていたが、
それが両親だと杜子春にはすぐに分かった。

峨眉山で何をしていたかを言わないと両親を痛い目に遭わせると言われても、
杜子春は何も答えなかった。
閻魔大王は鬼に命じ、杜子春の両親を鉄のムチで打った。
両親は血の涙を浮かべ、激しくいなないた。

両親は肉が裂け、骨が砕けて息も絶え絶えの状態である。
「まだ白状しないのか」という閻魔大王の問いかけに、
杜子春は固く目を閉じて耐えていた。
すると、母親のかすかな声が聞こえてきた。
「心配しなくていいんだよ。おまえさえ幸せになってくれれば、
 私たちはどうなったっていいんだよ。
 何を聞かれても、言いたくないことは黙っていなさい」

杜子春は思わず目を開けた。
母親は自分のせいでこんなに酷い目にあったのに、
全く自分を恨む様子など見せていない。
金のあるときだけ自分をチヤホヤ持ち上げた世間の人とちがって、
母親は強い志、健気な決心をを持っているのである。
杜子春は、死にそうになっている母親の首を抱いて、
涙を流し、「おっかさん」と叫んだ。

気がつくと、また杜子春は洛陽の西門の下に立っていた。
老人は微笑みながら、
「どうだ、おれの弟子になっても仙人には到底なれないだろう」
と言った。
杜子春は、仙人にはなれなかったが、なれなかったことをむしろ嬉しく思う、と答えた。
老人は
「もしお前があのとき黙ったままだったら、即座にお前の命を奪うつもりだった。
 もうお前は仙人になりたいとは思っていないだろうが、
 では、この先何になりたいと思うのか」
と杜子春に尋ねた。
杜子春は
「何になっても、人間らしい、正直な暮らしをするつもりです」
と答える。
その答えを聞いた老人は、もう二度と杜子春の前には現れないことを告げるとともに、
泰山の南の麓にある家を畑ごと杜子春に譲ると言って去っていった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

いかがでしたでしょうか。
正直、反省しています。
あらすじ、長すぎますよね。
もっと要点だけを捉えてコンパクトにまとめるべきでした。
ついつい丁寧にまとめてしまったので、
今後気を付けたいと思います。

物語の中で、いまいちイメージがつかめないのが、
神将とその眷属だと思います。

神将とは、仏の世界における武将です。
仏教の世界で、薬師如来に付き従っている12人の武将がいて、
十二神将と呼ばれています。
私も仏教にはあまり明るくないのですが、
新薬師寺のHPに十二神将像の画像が掲載されていました。
三つ叉の鉾を持っている像も掲載されています。
「杜子春」の中に出てくる神将がこの十二神将のことなのかは、
明記されていないのでよく分かりませんが、
杜子春の目の前に現れた神将のイメージをつかんでいただけたら
と思います。

この「杜子春」という物語、
非常に教訓的な物語であるように読めます。
親を思う優しい心が大切、と言っているように読めますが、
そもそも、
どうして仙人は杜子春の元を訪れたのでしょうか。
なんで杜子春が選ばれたのか、
考えてみると面白いと思います。

長くなったので、今日はこの辺で失礼します。
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芥川龍之介「トロッコ」・大正11年3月 [芥川龍之介]

芥川龍之介の「トロッコ」です。

一部の教科書に採用されていることもあって、
芥川の作品の中では、比較的よく知られているのではないでしょうか。
読みやすいので、読書感想文にも向いていると思います。

では、さっそくあらすじをご紹介しましょう。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
良平が8歳の時、小田原熱海間を通る軽便鉄道の敷設工事が始まった。
良平はしばしば、工事を行っている作業員(土工)たちが、
トロッコで土を運搬するのを見に行っていた。
土工は、土を載せて線路を下っていき、平地まで行くとそこに土を捨て、
今度はトロッコを押して線路を上っていく。
良平は、土を乗せたトロッコに同乗する土工の姿を見て、
自分もまた土工になりたいと思っていた。

2月の初旬のこと、
良平は6歳の弟と、弟と同い年の隣家に住む少年と遊んでいた。
3人はトロッコが置いてある村はずれに行った。
土工の姿が見えなかったので、
3人はトロッコを押し、上れるところまで上ると、
トロッコに乗り線路を下ってみた。
初めての経験に良平は興奮するが、
土工に見つかり、怒鳴られてしまう。

それ以来、良平はトロッコに触ることを避けていたが、
10日ほど経って、再び工事現場に行きトロッコを眺めていた。
すると、二人の若い男がトロッコを押して線路を上ってきたので、
良平は「押してやろうか」と声を掛けた。

若い土工が「いつまででも押していていい」と言うので、
5、6町あまり押していると急に線路が下りになる。
土工に乗るよううながされ、良平はトロッコに飛び乗った。
風を切ってトロッコが下っていく中、
良平は「押すよりも乗る方がずっといい、
行きに押す所が多ければ、帰りにまた乗る所が多い」などと、
当たり前のことを考えていた。

平地に着きトロッコが止まると、またトロッコを押して先に進んでいく。
雑木林を抜け、やがて海が見えてきた。
家からあまりに遠い所まで来てしまったことに気付き、
良平はトロッコを押していても楽しく感じなくなる。
そして、土工がもう帰ってくれればいいのにと思うようになる。

トロッコを押して進んでいくと、
一軒の茶店があった。
そこで土工はおかみさんを相手に悠々と茶を飲んだ。
その姿を見て、良平はイライラする。
茶店から出てきた土工の一人が駄菓子をくれたが、
それに対しても良平はあまり喜ぶことができなかった。

さらにトロッコを押して進んでいくと、また別の茶店に行き当たる。
土工はまた茶店に入っていった。
すでに日も暮れかかっていて、
良平は帰ることばかり気にするようになっていた。

茶店から出た土工は、良平に向かって、
自分たちはトロッコを押して着いた先に泊まるから、
お前はもう帰れ、と言う。
良平は、これまでトロッコを使って移動してきた道のりを、
たった一人で歩いて戻らなければならない。
泣きそうになったが、泣いている場合でもないので、
良平は土工たちにお辞儀をしてから、線路に沿って走り出した。

途中、土工にもらった駄菓子が邪魔になったので、
道端に投げ捨て、さらには板草履もその場に脱ぎ捨てて良平は走った。
行きと帰りでは風景が異なるため、不安を感じずにはいられない。
良平は、汗で濡れた着物が気になって、
ついには羽織も脱ぎ捨ててしまった。

日が落ち、いよいよ辺りは暗くなる。
良平は「命さえ助かれば」、そう思い、
すべりながらも、つまづきながらも走り続けた。
村はずれの工事現場が見えてきたときには、
ひと思いに泣きたくなったが、泣かずに最後まで走った。

村に着くと、
良平の姿を見た村人が「どうした?」と声を掛けてきたが、
良平は返事をせず自宅に向かった。
そして、自宅に着くなり、良平は大声で泣き出した。
泣き声を聞いて良平の周りに両親がやってくる。
さらには、近所の人もやってきた。
皆口々に泣いている理由を聞いたが、良平はただ泣き続けた。

時が過ぎ、26歳となった良平は、妻子と共に東京にやってきた。
現在は雑誌社で校正の仕事をしている。
が、今でもあのときのことを思い出すことがある。
思い出すのには何も理由がないだろうか。
日々の生活、俗世間の煩わしさに疲れた良平の前には、
8歳の良平が駆け抜けた薄暗い薮や坂のある道が、
細く続いているのである。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

いかがでしたでしょうか。
気になるのは最後の部分ですね。
あらすじとしてまとめるのが難しかったです。
本文では以下のように書かれています。

 良平は二十六の年、妻子と一しょに東京へ出て来た。今では或雑誌社の二階に、校正の朱筆を握っている。が、彼はどうかすると、全然何の理由もないのに、その時の彼を思い出す事がある。全然何の理由もないのに?ーー塵労に疲れた彼の前には今でもその時のように、薄暗い薮や坂のある路が、細細と一すじ断続している。・・・・・・・・・・・・


良平にとって、トロッコの思い出は単なる幼い頃の失敗談としては
受けとめられていないようです。
トロッコを通じて得た体験は普遍的なものとして受けとめられ、
大人になった良平は、【トロッコ体験】を繰り返しているのです。

8歳の良平は、トロッコに憧れていました。
乗りたくて乗りたくてたまらなかったし、
実際乗ってみたら、それは予想以上の快感を彼に与えました。
が、その快感をさらに得ようとしたために、
良平は恐ろしい思いをすることになります。
一度土工に叱られたにも関わらず、懲りずにトロッコに乗ったので、
罰が当たったとも言えますが、
悪いことをしたから怒られた、だけでは片付かない問題として、
良平は捉えているように思います。

憧れや理想を持たなければ、人生を生きていくことは難しいでしょう。
が、その憧れや理想を実現するために行動することは、
常にその憧れや理想によって得られる喜び以上の苦痛を強いられるとしたら、
人生とはあまりにつらいものだとも言えます。

妻子を養う良平の暮らしは、決して楽なものではないのでしょう。
東京に出てきたのには、何か夢や目標があったからでしょう。
夢や目標の実現が難しいことを知ってしまった良平にとって、
これからの人生は、
真っ暗な道を必死に駆け上がっていくようなものなのです。
果たしていつその道が尽きるのか、
尽きた先に何か希望があるのか、
良平自身にも分かっていないのだと思います。

↓悪くなかったぜ、と思ったらポッチリお願いします。
 ポッチリが増えると更新頻度が上がります、きっと。

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ところで、
この「トロッコ」をモチーフにした映画があるんですね!
知りませんでした。
予告を見る限り、ストーリーは全く異なるようですが、
よさそうな映画なので、ぜひ観てみたいと思います。



↓「トロッコ」が収録されている本はたくさんありますよ〜!

蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (岩波文庫)

蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (岩波文庫)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1990/08/18
  • メディア: 文庫



トロッコ (日本の童話名作選)

トロッコ (日本の童話名作選)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 1993/03
  • メディア: 大型本



杜子春・トロッコ・魔術―芥川竜之介短編集 (講談社青い鳥文庫 (90‐1))

杜子春・トロッコ・魔術―芥川竜之介短編集 (講談社青い鳥文庫 (90‐1))

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1985/02/10
  • メディア: 新書



齋藤孝のイッキによめる! 小学生のための芥川龍之介

齋藤孝のイッキによめる! 小学生のための芥川龍之介

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/07/16
  • メディア: 単行本



蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1968/11/19
  • メディア: 文庫



トロッコ・一塊の土 (角川文庫 (あ2-4))

トロッコ・一塊の土 (角川文庫 (あ2-4))

  • 作者: 芥川 竜之介
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1969/07
  • メディア: 文庫



トロッコ・鼻 (21世紀版・少年少女日本文学館)

トロッコ・鼻 (21世紀版・少年少女日本文学館)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/02/27
  • メディア: 単行本



芥川龍之介全集〈第9巻〉トロツコ・六の宮の姫君

芥川龍之介全集〈第9巻〉トロツコ・六の宮の姫君

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1996/07/08
  • メディア: 単行本



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芥川龍之介「お富の貞操」大正11年5・9月 [芥川龍之介]

久しぶりの更新です。
忘れていたわけじゃないんだからねっ!

今日は近代文学史一のイケメソ・芥川龍之介の作品です。

「お富の貞操」はあんまり有名な作品ではないようですが、
とても面白い作品です。個人的には大好きです。

芥川は昭和2年に自殺していて、
死ぬ数年前からかなり疲弊していたようで、
その頃の作品を読むととても辛い気持ちにさせられます。
大正11年に書かれた「お富の貞操」は、
まだそれほど芥川が疲れ切っていなかった、
まだ生きる力を持っていたころの作品と言えるかなと思います。
密かに特集しようと思っている【ぬこぬこ小説】の一つでもあります★

では、張り切って行ってみよう!
ニャー![猫]

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
明治元年5月14日、旧幕府軍と新政府軍が衝突した上野戦争の前日のことである。
朝から激しい雨が降り続いているが、
新政府のお達しにより住民は皆立ち退き、上野の街は人気もなく静まっていた。
確認できる人影は、小間物屋の台所に残された一匹の大きなオスの三毛猫くらいだ。

午後四時頃、小間物屋の台所に入ってきた人物がいる。
それは浴衣の懐中に短銃を忍ばせた一人の乞食だった。
乞食は三毛猫の姿を見つけると、
「明日になるとな、この界隈へも雨のように鉄砲の玉が降って来るぞ、
おれも明日死ぬかもしれない。もし死ななかったとしたら、この先お前と一緒
に掃きだめをあさったりはしないつもりだぞ」
と話しかけた。

そこにもう一人の人物が現れる。
今度は小間物屋の使用人・お富だった。
お富は小間物屋のおかみさんが可愛がっている三毛猫を取りに戻ってきたのだった。
新公はこの非常事態に猫のために戻ってくるなんて危険を冒すのは馬鹿らしい、
猫ごときで騒いでいるおかみさんは「わからずやのしみったれ」だと中傷する。
主人思いのお富は、おかみさんを批判されたことに怒り、
「いくさが始まるわけでもあるまいし、何が危ないことがあるか」と腹を立てる。

「危ないことがあるか」と言われた新公は、
「万一わたしが妙な気でも出したらどうするんだ?」とお富を押し倒すが、
お富が剃刀を取り出し抵抗したため、
懐から短銃を取り出し、銃口を三毛猫に向ける。

お富は三毛を撃たないでくれと新公に懇願するが、
新公は「猫を助ける代わりに、お前の体を借りるぜ」と言う。
脅迫されたお富はしばらくのあいだ怒りや憎しみといった
感情を覚えていたが、
覚悟したのか隣の茶の間に入ると自ら帯を解き、畳の上に横になった。
茶の間に新公が入ると、そこには袖で顔を覆って横たわるお富の姿があった。
お富の姿を見た新公は逃げるように台所に引き返し、
「冗談だ。お富さん、もうこっちへ出て来ておくんなさい」と言う。

数分の後、
新公は猫を抱いたお富と向かい合っていた。
新公はどうして猫の命のために貞操を捨てるなんてことをしようとしたのか、
お富に尋ねる。
その質問にお富は「ただあのときはああしないと済まない気がした」とだけ答える。
お富が去った後、新公は柄杓になみなみと水を汲むと
「村上新三郎源の繁光、今日だけは一本やられたな」とひとりごちた・・・・・・・・・

それから20年以上も経った明治23年3月26日、
東京では第3回内国博覧会が開催されようとしていた。
お富は、奉公していた小間物屋の主人の甥と結婚し、
3人の子の母親となっている。
お富が夫と子どもと一緒に上野の街を歩いていると、
内国博覧会の開会式に参加していた政財界の著名人を乗せた馬車や人力車が通っていった。
渋沢栄一や田口卯吉といった人々の乗った馬車や人力車が連なる中に、
多くの勲章を付けた新公を乗せる二頭立ての馬車があった。

すれ違う瞬間、お富と新公は顔を見合わせた。
しかし、お富は変わり果てた新公の姿を見ても驚きはしなかった。
なぜなら新公が「唯の乞食」ではないことは以前から分かっていたからだ。
明治元年のあの日、どうしてあんな無茶をしたのか、
そしてどうして新公は自分に手を出そうとはしなかったのか、
お富にはその理由は分からなかった。
しかし、お富にとってあの日そうしたのは当然の行為であった。
それらはすべて、当然すぎるほど当然だったのだ。
新公の馬車とすれ違うお富は、何か心の伸びるような気がした。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

実は、この「お富の貞操」、物語に面白い仕掛けがしてあります。
お富が帯を解き畳に横になった、その姿が描かれた後、
(四十一字欠)とまるで伏せ字のように肝心な部分が隠されているんです。
これは伏せ字ではなく、作者による意図的な仕掛けなんですが、
この(四十一字欠)をカットしてしまっている本もあるので、
お読みの際はぜひ(四十一字欠)が入っているバージョンを読んでみて下さい。

新潮文庫の『戯作三昧・一塊の土』に収録されているバージョンには、
(四十一字欠)がそのまま載せられているのでオススメですぜ (´∀`)

戯作三昧・一塊の土 (新潮文庫)

戯作三昧・一塊の土 (新潮文庫)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1983/11
  • メディア: 文庫



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