芥川龍之介「トロッコ」・大正11年3月 [芥川龍之介]

芥川龍之介の「トロッコ」です。

一部の教科書に採用されていることもあって、
芥川の作品の中では、比較的よく知られているのではないでしょうか。
読みやすいので、読書感想文にも向いていると思います。

では、さっそくあらすじをご紹介しましょう。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
良平が8歳の時、小田原熱海間を通る軽便鉄道の敷設工事が始まった。
良平はしばしば、工事を行っている作業員(土工)たちが、
トロッコで土を運搬するのを見に行っていた。
土工は、土を載せて線路を下っていき、平地まで行くとそこに土を捨て、
今度はトロッコを押して線路を上っていく。
良平は、土を乗せたトロッコに同乗する土工の姿を見て、
自分もまた土工になりたいと思っていた。

2月の初旬のこと、
良平は6歳の弟と、弟と同い年の隣家に住む少年と遊んでいた。
3人はトロッコが置いてある村はずれに行った。
土工の姿が見えなかったので、
3人はトロッコを押し、上れるところまで上ると、
トロッコに乗り線路を下ってみた。
初めての経験に良平は興奮するが、
土工に見つかり、怒鳴られてしまう。

それ以来、良平はトロッコに触ることを避けていたが、
10日ほど経って、再び工事現場に行きトロッコを眺めていた。
すると、二人の若い男がトロッコを押して線路を上ってきたので、
良平は「押してやろうか」と声を掛けた。

若い土工が「いつまででも押していていい」と言うので、
5、6町あまり押していると急に線路が下りになる。
土工に乗るよううながされ、良平はトロッコに飛び乗った。
風を切ってトロッコが下っていく中、
良平は「押すよりも乗る方がずっといい、
行きに押す所が多ければ、帰りにまた乗る所が多い」などと、
当たり前のことを考えていた。

平地に着きトロッコが止まると、またトロッコを押して先に進んでいく。
雑木林を抜け、やがて海が見えてきた。
家からあまりに遠い所まで来てしまったことに気付き、
良平はトロッコを押していても楽しく感じなくなる。
そして、土工がもう帰ってくれればいいのにと思うようになる。

トロッコを押して進んでいくと、
一軒の茶店があった。
そこで土工はおかみさんを相手に悠々と茶を飲んだ。
その姿を見て、良平はイライラする。
茶店から出てきた土工の一人が駄菓子をくれたが、
それに対しても良平はあまり喜ぶことができなかった。

さらにトロッコを押して進んでいくと、また別の茶店に行き当たる。
土工はまた茶店に入っていった。
すでに日も暮れかかっていて、
良平は帰ることばかり気にするようになっていた。

茶店から出た土工は、良平に向かって、
自分たちはトロッコを押して着いた先に泊まるから、
お前はもう帰れ、と言う。
良平は、これまでトロッコを使って移動してきた道のりを、
たった一人で歩いて戻らなければならない。
泣きそうになったが、泣いている場合でもないので、
良平は土工たちにお辞儀をしてから、線路に沿って走り出した。

途中、土工にもらった駄菓子が邪魔になったので、
道端に投げ捨て、さらには板草履もその場に脱ぎ捨てて良平は走った。
行きと帰りでは風景が異なるため、不安を感じずにはいられない。
良平は、汗で濡れた着物が気になって、
ついには羽織も脱ぎ捨ててしまった。

日が落ち、いよいよ辺りは暗くなる。
良平は「命さえ助かれば」、そう思い、
すべりながらも、つまづきながらも走り続けた。
村はずれの工事現場が見えてきたときには、
ひと思いに泣きたくなったが、泣かずに最後まで走った。

村に着くと、
良平の姿を見た村人が「どうした?」と声を掛けてきたが、
良平は返事をせず自宅に向かった。
そして、自宅に着くなり、良平は大声で泣き出した。
泣き声を聞いて良平の周りに両親がやってくる。
さらには、近所の人もやってきた。
皆口々に泣いている理由を聞いたが、良平はただ泣き続けた。

時が過ぎ、26歳となった良平は、妻子と共に東京にやってきた。
現在は雑誌社で校正の仕事をしている。
が、今でもあのときのことを思い出すことがある。
思い出すのには何も理由がないだろうか。
日々の生活、俗世間の煩わしさに疲れた良平の前には、
8歳の良平が駆け抜けた薄暗い薮や坂のある道が、
細く続いているのである。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

いかがでしたでしょうか。
気になるのは最後の部分ですね。
あらすじとしてまとめるのが難しかったです。
本文では以下のように書かれています。

 良平は二十六の年、妻子と一しょに東京へ出て来た。今では或雑誌社の二階に、校正の朱筆を握っている。が、彼はどうかすると、全然何の理由もないのに、その時の彼を思い出す事がある。全然何の理由もないのに?ーー塵労に疲れた彼の前には今でもその時のように、薄暗い薮や坂のある路が、細細と一すじ断続している。・・・・・・・・・・・・


良平にとって、トロッコの思い出は単なる幼い頃の失敗談としては
受けとめられていないようです。
トロッコを通じて得た体験は普遍的なものとして受けとめられ、
大人になった良平は、【トロッコ体験】を繰り返しているのです。

8歳の良平は、トロッコに憧れていました。
乗りたくて乗りたくてたまらなかったし、
実際乗ってみたら、それは予想以上の快感を彼に与えました。
が、その快感をさらに得ようとしたために、
良平は恐ろしい思いをすることになります。
一度土工に叱られたにも関わらず、懲りずにトロッコに乗ったので、
罰が当たったとも言えますが、
悪いことをしたから怒られた、だけでは片付かない問題として、
良平は捉えているように思います。

憧れや理想を持たなければ、人生を生きていくことは難しいでしょう。
が、その憧れや理想を実現するために行動することは、
常にその憧れや理想によって得られる喜び以上の苦痛を強いられるとしたら、
人生とはあまりにつらいものだとも言えます。

妻子を養う良平の暮らしは、決して楽なものではないのでしょう。
東京に出てきたのには、何か夢や目標があったからでしょう。
夢や目標の実現が難しいことを知ってしまった良平にとって、
これからの人生は、
真っ暗な道を必死に駆け上がっていくようなものなのです。
果たしていつその道が尽きるのか、
尽きた先に何か希望があるのか、
良平自身にも分かっていないのだと思います。

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ところで、
この「トロッコ」をモチーフにした映画があるんですね!
知りませんでした。
予告を見る限り、ストーリーは全く異なるようですが、
よさそうな映画なので、ぜひ観てみたいと思います。



↓「トロッコ」が収録されている本はたくさんありますよ〜!

蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (岩波文庫)

蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (岩波文庫)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1990/08/18
  • メディア: 文庫



トロッコ (日本の童話名作選)

トロッコ (日本の童話名作選)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 1993/03
  • メディア: 大型本



杜子春・トロッコ・魔術―芥川竜之介短編集 (講談社青い鳥文庫 (90‐1))

杜子春・トロッコ・魔術―芥川竜之介短編集 (講談社青い鳥文庫 (90‐1))

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1985/02/10
  • メディア: 新書



齋藤孝のイッキによめる! 小学生のための芥川龍之介

齋藤孝のイッキによめる! 小学生のための芥川龍之介

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/07/16
  • メディア: 単行本



蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1968/11/19
  • メディア: 文庫



トロッコ・一塊の土 (角川文庫 (あ2-4))

トロッコ・一塊の土 (角川文庫 (あ2-4))

  • 作者: 芥川 竜之介
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1969/07
  • メディア: 文庫



トロッコ・鼻 (21世紀版・少年少女日本文学館)

トロッコ・鼻 (21世紀版・少年少女日本文学館)

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/02/27
  • メディア: 単行本



芥川龍之介全集〈第9巻〉トロツコ・六の宮の姫君

芥川龍之介全集〈第9巻〉トロツコ・六の宮の姫君

  • 作者: 芥川 龍之介
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1996/07/08
  • メディア: 単行本



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